返ってきたミトラ通信

おおいなる調和を目指してしなやかに生きる。

Planet-earth-6

あれから、数日が経った。

環緒の意識は未だ戻らない。

 

しばらく降り続いた雨がようやく上がった。久しぶりに姿を見せたお日様は、まだ濡れているアスファルトから湯気が出るように、強い日差しを地面に照らしつける。

 

警察の話では、環緒の事故は、自損事故で処理されたらしい。隆三郎は、玉緒の状況を考えると、自損はおかしいだろうと言って、食い下がったようだが、ぶつかった証拠が何も出てこない、目撃情報もなく、監視カメラが設置された場所でもなく、警察はこれ以上何もできない、と一蹴された、と絆愛(りあ)は隆三郎から聞かされていた。

 

遅い朝食を食べながら、隆三郎が絆愛に話しかけている。

「なぁ、絆愛。俺も若い頃バイクで事故ったことがあることは知っているな。その時、頭を強く打って、しばらく意識がなくて入院して、死んでもおかしくなかったが、たが、今はこうして無事に生きている。それでも、事故った後、事故る前に普通に出来たことが、できなくなったりもした。事故った後で、何故か離れていく人も増えたし、知らない人が寄ってくることもあった。」

「うん。その話は、何回も聞いている。だから、パパはバイクに反対だったんだよね。」

「そうだな。その時期から、ふと言うことが当たるようになってな。特に人の生き死にとか。宝くじとか、ギャンブルに関することは当たらなかったな。それまで、仲が良かった人が気持ち悪がって離れたり、欲得を求めて言い寄ってきたり。そのころ、人間不信になってな。誰を信じていいか、誰も信じられないのか。何をどうしたらいいのか。何も分からなくなった。」

「その後に死んだママに出会ってな。ママは救いだったんだな。」

「それだったら、ママが死ぬ時も、死ぬときがわかったの?死ぬ姿が見えたの?」

「それは分からなかったな。そのときは全く見えなかったんだよ。」

「ふ~ん。じゃぁ、環緒は大丈夫なの?大丈夫だよね?」

「ああ。大丈夫だよ。環緒の意識は、そのうち戻ってくるさ。自分の意志でね。そのうち意識が戻って、いつもの環緒に戻ってくるよ。」

「だから、環緒に何があっても、どんなことがあっても、見守ってて欲しいんだ。おまえは、いつも環緒の味方になってて欲しいんだ。」

「そうだね。そうだよね。大丈夫だよ。絆愛は、いつだって環緒の見方だよ。お見舞い行ってくるね。」

 

病院にまでの道すがら、公園を抜けていく。通路の脇では、お日様の姿を喜ぶかのように、青や、紫の朝顔が咲き始めている。木々は、青々と葉っぱを茂らせて、大きな木陰をつくっている。地面を照り付ける強い日差しとは裏腹に、葉の間から、木漏れ日が優しく差し込む。差し込んだ木漏れ日の中を、踊るように、2羽のアゲハチョウが飛んでいる。アブラゼミや、ツクツクボウシが、あちこちの木々で、まるで何かを話しているかのように、鳴いている。

 

絆愛は、公園の通路を歩いている途中で、日傘を差した女性と、若い男性が一緒に歩いている脇を通りすぎて行った。

脇を抜けるとき、絆愛は、何とも言えない上品な香りを嗅ぎ取り、なんとなく、ざわざわした感情を覚えた。

 

公園を抜けると、強い日差しが、絆愛の肌を刺すように照り付ける。

目線を上にあげると、眩しい光が目に入る。

「夏休みに入ったよ。たまお。」

病院を見上げながら、絆愛はつぶやいた。

 

To be continued